俺は数年前、対面営業の担当者から「今の保険、これに切り替えませんか」と持ちかけられた。担当者は感じの良い人だった。切り替えた方が条件が良くなるという話だった。他社と見積もりを比べたわけじゃない。その場で、その提案に乗った。
その保険は、後に解約した。月19,800円払って、戻ってきたのは800円だった。詳しい経緯は別記事に書いている(貯蓄型保険を解約した実録)。
今振り返ると、当時の俺が見ていたのは商品じゃなく人だった。担当者が信頼できるか、切り替えた方が得かどうか。その二つだけで契約に進んでいた。中身を疑う視点が、そもそもなかった。
あの時気づけなかったことは、貯蓄型保険に限らない。太陽光発電、ファンドラップ、オフショア投資、相続税対策アパート、対面証券の社債。商品ジャンルは違っても、同じ構造が繰り返されている。
結論を先に言う。俺が警戒しているのは商品そのものじゃない。対面で説明を受け、その場の流れで契約に進みやすい販売方法だ。対面で勧められる金融商品には、その場で契約を急がされる危険がある。重要なのは、自分で比較検討する前に、販売側のペースで判断してしまう構造にある。俺がオルカンを選んでいるのも、商品を勧められたからじゃない。自分で調べ、自分のルールで判断して申し込んだからだ。
太陽光発電——訪問販売・電話営業で来る「儲かる話」
太陽光発電は、投資対象として悪いものじゃない。FIT制度を使った売電収入は、条件が合えば安定したキャッシュフローになる。俺が引っかかるのは商品じゃなく、勧誘の入り方だ。
訪問販売や電話営業で来る太陽光の話には、共通する言葉がある。「節税になります」「不労所得です」「将来の年金がわりに」。どれも本当かもしれない。でも、その場で決めさせようとする言葉でもある。国民生活センターにも、突然の訪問で太陽光発電設備を契約してしまった相談が寄せられている(国民生活センター「突然訪問されて太陽光発電設備と家庭用蓄電池を契約した」)。
収益性は、想定発電量・売電単価・メンテナンス費・出口までを含めて試算しないと判断できない。数十年単位の投資だ。その場でサインする話じゃない。見るべきは商品じゃなく、判断を急がせる構造だ。
ファンドラップ——窓口で勧められる「おまかせ運用」
ファンドラップも同じだ。窓口で「おまかせで運用します」と言われれば、忙しい人には魅力的に映る。投資判断を丸ごと預けられるサービスそのものが悪いわけじゃない。
見落とされやすいのは手数料だ。ファンドラップは、組み入れファンドの運用管理費用(信託報酬)に加えて、投資一任報酬・ファンドラップ報酬が別途かかる仕組みが多い。野村證券の公式サイトによれば、投資一任報酬とファンドラップ報酬の合計は最大で年率1.738%(税込み)、これに組み入れファンドの信託報酬(目安0.3〜1%程度)が加わると、合計で年率2%台になるケースもある(野村證券「野村ファンドラップ」手数料の概要)。低コストのインデックス投信を自分で積み立てる場合とは、コストの層がそもそも違う。手数料が見えにくいまま積み上がっていく構造は、貯蓄型保険の手数料は見えないだけで抜かれている話とも重なる。
「おまかせ」という言葉は安心感を運ぶ。でも、その安心感の値段が何%なのかは、自分で確認しない限り出てこない。
オフショア投資——紹介制、対面でしか出会いにくい投資
オフショア投資は、紹介がないと出会えないことが多い。海外の保険会社や運用会社を使った積立商品で、非公開の高利回りを謳うケースもある。海外に資産を置くこと自体は否定しない。国内外に分散する発想は理にかなっている。
ただ、無登録の海外業者が絡む場合、日本の金融庁の監督が及びにくいケースがあると言われる。金融庁も、無登録の海外所在業者による勧誘には注意を呼びかけている(金融庁「無登録の海外所在業者による勧誘にご注意ください」)。契約書は英語、途中解約すると元本を大きく割る条件、そういった細部は説明の中で流されやすい。仕組み・手数料・流動性・契約条件を自分で読んで理解できるか。それが確認できないなら、その場で判断していい話じゃない。
相続税対策アパート——不動産営業のトーク
相続税対策として、アパート経営を勧められることがある。借入をしてアパートを建てれば相続税評価額が下がる、という理屈自体は間違っていない。不動産投資そのものも、否定する話じゃない。
問題は、「相続税が減る」という一点だけで、投資としての収益性の検討が抜け落ちるケースだ。空室リスク、修繕費、将来の家賃下落、出口の売りやすさ。これらは相続税の話とは別の軸で検討がいる。営業トークは「節税になる」までしか話さないことが多い。相続対策という目的と、投資としての採算性は、分けて考える話だ。
対面証券の社債——「対面」というコストの正体
対面証券で社債を勧められることもある。社債自体は、発行体の信用力次第で選択肢になり得る商品だ。俺が見るのは商品じゃなく、それを売っている場所のコスト構造だ。
対面証券には、店舗があり、担当者がいて、人件費がかかる。その費用は、どこかで回収する必要がある。ネット証券に比べて対面証券の手数料が高めに設定されがちなのは、偶然じゃない。「対面」というサービス自体に、コストが乗っている。そのコストを払う価値があるかは、商品の中身とは別に判断していい話だ。
なぜ対面営業はこの形になるのか
ここまで挙げた5つに共通するのは、商品の善悪じゃない。対面営業という販売方法そのものの仕組みだ。
営業担当者個人が悪いわけじゃない。むしろ多くの担当者は、自分が売っている商品を良いと思って勧めている。問題は、その手前にある構造だ。
対面で商品を売る企業には、店舗費用・人件費・研修費用がかかる。担当者には販売目標がある。この販売コストを回収するには、成約率を上げる必要がある。だから対面営業は、比較検討の時間を与えるより、その場で契約に進める提案型営業という形にならざるを得ない。
この構造が極端な形で表面化した例が、プルデンシャル事件が証明した「保険営業モデルの欠陥」だ。売る側の事情が買う側の利益より先に来る構造は、業界を問わず起こり得る。
ネット証券や直販の低コスト投信に、対面での提案型営業がほとんど存在しないのも同じ理由だ。店舗も担当者もいないぶん、その場で契約を急がせる動機自体がない。急かされるかどうかは、商品の良し悪しより先に、その販売チャネルがどういうコストで成り立っているかで決まる。
敵は営業員じゃない。営業員をその形にさせている、コスト構造そのものだ。
俺が対面で申し込んだことが一度もない理由
俺は、対面で金融商品を申し込んだことが一度もない。理由は単純だ。自分のお金の判断材料を、相手側に依存したくないからだ。
「プロに相談した方が確実だ」という考え方もあるだろう。キミがそう思うのは自然だ。特に個別株で損失を経験していたら、自分の判断への自信は揺らぐ。誰かに任せたくなる気持ちはわかる。
でも、相談することと、その場で決めることは別の話だ。説明を聞くこと自体は、悪いことじゃない。俺が線を引いているのは、そこから先だ。その場で契約しない。一度持ち帰って、自分で調べる時間を作る。
自分で調べる時間がない、自信がない。そう思うなら、それでいい。結論を急がなければ、それだけでいい。持ち帰って一晩置いた話が、翌日も同じくらい魅力的に見えるなら、その時に判断すればいい。
オルカンを選んでいるのも、同じ理由からだ。オルカンだから正解、という話じゃない。俺は2025年からNISAのつみたて枠で積み立てを始め、今月から月3万円を4万円に増額した。誰かに勧められたからじゃない。自分で調べて、自分のルールで判断して、自分で申し込んだ。誰かに勧められた商品と、自分で調べて選んだ商品。その間には、判断の主導権がどちらにあったかという違いがある。
まとめ
対面営業を否定するつもりはない。良い提案をしてくれる担当者もいる。俺が見ているのは、商品の良し悪しじゃない。誰の都合でその商品が目の前に出てきたのか、という一点だ。
良い商品を探す前に、誰の都合でその商品を買おうとしているのかを確認する。それが、俺の判断軸だ。
※本記事は俺個人の見解・体験を綴ったものであり、特定の金融商品の購入・解約を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。


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