2026年8月から、高額療養費制度の自己負担の上限が引き上げられる。法律はもう成立した(参考:厚生労働省「医療保険制度改正法が成立しました」 取得日:2026-06-09)。
このニュースが流れた途端、保険系のメディアが一斉に動いた。「自己負担が増えます」「だから民間の医療保険を見直しましょう」――言葉は中立を装っているが、行き先はだいたい無料相談の予約ボタンだ。
子どもが生まれたばかりの同年代から、こんな相談をもらった。「医療費の自己負担が増えるなら、今のうちに医療保険を手厚くしておくべきかな」。気持ちはわかる。家族ができると、守りを固めたくなる。
正直に言う。俺はこのニュースを見ても、解約した医療保険に戻る気はない。理由は3つある。
高額療養費は8月から「2段階」で上がる――まず事実を正確に置く
煽る前に、何が起きるのかを正確に。
高額療養費は、1か月の医療費の窓口負担が一定額を超えたら、超えた分が戻ってくる制度だ。年収500万円くらいの会社員なら、月に医療費が100万円かかっても、自己負担の上限はおよそ9万円。残りは公的保険が持つ。これが日本の最強のセーフティネットだ。
その上限が、2026年8月から上がる。年収約370万〜770万円の層で、月の上限はおよそ80,100円から85,800円へ。増える額は月およそ5,700円だ。これが2027年8月にもう一段引き上げられる、2段階の改正になっている。
ここで一つ、誤解を解いておきたい。この引き上げは、実は2025年に一度凍結されている。患者団体の反発を受けて、2025年3月にいったん見送りになった。その後、議論をやり直して2025年末に再決定され、2026年5月に法律が成立した。「潰れた話」ではなく「形を変えて夏に実施される話」だ。当時のニュースで止まっている人は、ここを更新しておいたほうがいい。
そしてもう一つ、見落とされがちな変更がある。年間の自己負担に上限が新設されたこと。年収約370万〜770万円なら、1年間でおよそ53万円。どれだけ医療費がかさんでも、年でこのラインを超えたら、あとは公的保険が持つ。
「上限が上がる」と「保険が必要になる」は、まったく別の話だ
ここが今日いちばん言いたいことだ。
負担が増えるなら、その分を民間保険で埋めるべきじゃないか――そう考えるのは自然だ。でも数字を並べると、話が逆を向く。
増えるのは月5,700円。年に直せば約7万円弱だ。一方で、民間の医療保険を1本持てば、保険料は月数千円から、手厚くすれば1万円を超える。増えた自己負担を埋めるために、それと同じかそれ以上の保険料を毎月払い続ける。これは穴を埋めているんじゃなくて、別の穴を掘っているだけだ。
しかも今回、年間上限という「天井」が初めて見えた。これまで「もし大病したら青天井で取られるかも」という漠然とした不安が、医療保険を売る側の燃料だった。だが年53万円という最大ラインが法律で引かれたことで、いくら備えればいいかが数字で確定した。天井が見えたものは、保険で移転するより、自分の現金で受け止めるほうが安い。
俺の順番はこうだ。まず生活防衛資金で年53万円を受け止められる体力をつくる。その上で余った金はNISAに回す。保険料として毎月溶かすより、こっちのほうが手元に残る。
それでも公的保険には穴がある――会社員か、自営業か
不要論を気持ちよく語って終わり、にはしない。公的保険には埋まらない穴が、確かにある。ここを隠す記事は信用しなくていい。
一つ目は差額ベッド代。個室や少人数部屋を希望すると、1日あたり平均6,800円前後が全額自己負担になる(高額療養費の対象外)。ただし、これは病院都合や治療上の必要で個室になった場合は払う義務がない。「希望するかどうか」は自分で選べる費用だ。
二つ目は先進医療。陽子線治療などは技術料が数百万円かかり、これも対象外。ただし保険適用化が年々進んでいて、対象は縮小傾向にある。ここだけが心配なら、医療保険まるごとより「先進医療特約だけ」のほうが筋がいい。
三つ目が一番大事で、収入が止まるリスクだ。会社員には傷病手当金がある。病気で働けなくても、給料のおよそ3分の2が最長1年半支給される。だが自営業・フリーランスには、これがない。長期療養で収入がゼロになるリスクを、公的保険は埋めてくれない。
つまり同じ「保険どうする問題」でも、会社員と自営業ではスタートラインが違う。
こういう人は、医療保険を残していい
俺は「全員、保険を捨てろ」とは言わない。次に当てはまるなら、医療保険を持つ合理性は残る。
- 自営業・フリーランス。傷病手当金がないぶん、収入が止まるリスクを自分で抱えている。
- 生活防衛資金がまだ薄い人。年53万円を即現金で出せないうちは、貯金が貯まるまでの”つなぎ”として掛け捨ての医療保険に意味がある。
- 入院中の差額ベッドや雑費に、どうしても備えたい人。ただしこの場合も、医療保険まるごとより特約や少額の掛け捨てで足りることが多い。
これは負けじゃない。自分の状況に上限がいくらかを知った上で、足りない分だけを保険で補う――それは設計だ。不安に押されて言われるまま入るのとは、まったく違う。
俺が解約した貯蓄型保険の、いまの答え合わせ
最後に、自分の口座の数字を出す。
俺は2024年に、貯蓄型の保険を解約した。月19,800円を払い続けて、解約して戻ってきたのは800円だ。返戻率1%未満。詳しい顛末は貯蓄型保険を解約した実録に書いた。
あのとき俺が手放したのは、「保障」と「貯蓄」を1本に混ぜた商品だった。保障は掛け捨てで必要な分だけ買い、貯蓄はNISAで分ける。混ぜると、運用利回りは見えなくなり、途中でやめれば元本は溶ける。あの800円が、それを証明している。
今回の改正は、その判断の答え合わせになった。自己負担の上限が上がっても、年間の天井が見えた以上、俺の結論は変わらない。掛け捨てで本当に必要な保障だけ持ち、残りは自分で積み上げる。制度に守られる範囲を正確に知れば、保険屋に払う金は驚くほど減る。
今日やること
- 自分の年収だと、高額療養費の自己負担の上限が月いくらかを確認する(年収約370万〜770万円なら8月から月約85,800円)
- 勤め先の健康保険組合に「付加給付」があるか調べる。大企業だと月2万円台で頭打ちになることがある
- 今入っている医療保険が「掛け捨て」か「貯蓄型」かを確認する。貯蓄型なら、保障と貯蓄を分けて再設計を検討する
- 生活防衛資金で、年53万円の自己負担を即現金で出せるかを点検する
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- 貯蓄型保険を解約した実録 ――月19,800円が返戻金800円になった話。今日の数字の出どころはここだ。
- 変額保険をマイナスで解約してオルカンに移した話 ――「公的保険があるから保障は最小で十分」の原点。
- 生活防衛資金の目安と保険の絞り方 ――保険を薄くする前に固めておく、守りの土台。
まとめ
高額療養費が8月から改悪されるのは事実だ。自己負担は確かに増える。でも、それは「民間の医療保険が必要になった」という意味じゃない。むしろ年間の天井が見えたことで、いくら備えればいいかが数字で確定した。
増える額は月5,700円。それを埋めるために月1万円の保険を買い直すなら、本末転倒だ。会社員で、生活防衛資金がある俺にとって、答えはもう出ている。
制度に守られる範囲を正確に知る。足りない穴だけを、自分で埋める。不安を売る相手に、その仕事を外注しない。それが、放置系の守り方だ。
※本記事は俺個人の見解・体験を綴ったものであり、特定の金融商品の解約・購入を推奨するものではありません。制度の詳細や最新の数値は厚生労働省の公表資料をご確認のうえ、判断はご自身の責任でお願いします。


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