2026年6月6日、こんなツイートが235万回表示された。
流石に新NISA損切りした。マジで貧困舐めんなボケ。
気持ちはわかる。相場が下がって、口座が赤くなって、生活も楽じゃない。叫びたくもなる。
ただ、ひとつだけ皮肉な事実がある。このツイートの4日前、6月2日にS&P500は史上最高値(終値7,609ドル)をつけている。日経平均も6月1日に一時66,900円台、過去最高値圏にいた。つまり史上最高値のド真ん中で「損切りした」人がいる。
そして6月5日、日経平均は前日比882円安。一見、暴落だ。でも中身を見ると、下げたのは半導体の値がさ2銘柄で指数を引きずっただけ。東証プライムの約76%の銘柄はその日上がっている。(※半導体相場との距離の取り方は日経平均6万8千円。それでも俺が半導体バブルに乗らない3つの理由に書いた。主役を当て続けるゲームには乗らない、という話だ。)指数の数字だけ見て売った——これは「相場に負けた」んじゃない。自分の早とちりに負けたんだ。
結論を先に言う。俺は損切りしない。理由は、損切りには本人が気づいてない損が二重三重に隠れてるからだ。そして見落とされてる「たった1つの構造」はこれだ——複利は、市場に居続けた者にしか効かない。退場した瞬間に回路が切れる。順番に解体していく。
損切りの本当の損は、含み損じゃない
含み損を確定させる。これは損の入り口にすぎない。NISAで損切りすると、もっと厄介なものを失う。非課税枠そのものだ。
新NISAの生涯枠1,800万円は「簿価(買った時の金額)」で管理されてる。100万円で買った投信を売れば、その100万円分の枠は翌年以降に復活する。ここまではいい。問題は、復活するのは「翌年以降」で、その年の年間投資枠360万円には上乗せされないこと(出典:金融庁「NISAを利用する皆さまへ」、取得日:2026-06-07)。売って、すぐ買い直す、ができない。空白期間が生まれる。
さらにエグいのが、NISAは損益通算も繰越控除もできない。特定口座なら、損失を他の利益と相殺して税金を減らせる。3年繰り越せる。でもNISAの損失は税務上「なかったこと」にされる。救済ゼロ(出典:金融庁同資料、七十七銀行「新NISAで損切りはしないほうがいい?」)。
つまりNISAでの損切りは——含み損を確定し、非課税で回復できたはずの未来を捨て、税の救済もない。特定口座でやる損切りより、構造的に不利なんだ。NISAは「持ち続けてこそ」設計されてる器。途中で降りる人を、制度がいちばん冷たく扱う。
ちなみに「2026年から売った年内に枠が復活する」という話をネットで見るが、あれは令和8年度の税制改正で見送られてる(出典:金融庁「令和8年度税制改正について」、取得日:2026-06-07)。2026年も翌年復活のままだ。期待して売ると、二重に裏切られる。
市場は、居続けた者だけが勝つ場所
ここが「たった1つの構造」の核心だ。
J.P.モルガンが出してる有名なデータがある。S&P500(配当込み)に2004年から2023年までの20年、1万ドルを投じてフル投資し続けた場合、年率9.7%で63,637ドルになった。ところが、この20年のうち値上がりが大きかったベスト10日を逃しただけで、年率5.5%、29,154ドルまで落ちる。半分以下だ(出典:J.P. Morgan Asset Management “Time in the market”、取得日:2026-06-07)。
20年で、たった10日。その10日を逃すだけで資産が半分。
しかも残酷なのは、その「ベスト10日」のうち7日は、暴落の直後2週間以内に来ること。下がって怖くなって売る——まさにそのタイミングの直後に、最大の反発が来る。狼狽売りは、構造的に一番おいしい日を取り逃すように出来てる。
行動経済学のデータも同じことを言う。DALBARの調査では、過去30年(1992〜2021年)でS&P500は年10.7%だったのに、平均的な個人投資家のリターンは年7.1%。毎年3.6%ポイントも取りこぼしてた。理由はシンプルで、みんな下がると売り、上がると買うからだ(出典:同J.P. Morgan資料内DALBAR QAIB)。市場は出てるのに、人間の手が邪魔をする。
国の数字も見ておこう。金融庁の試算では、1989年以降、毎月コツコツ積み立てて20年保有したケースで元本割れは一度もない(100万円が186〜331万円に)。一方、保有5年だとマイナスもある(出典:金融庁「つみたてNISA早わかりガイドブック」、取得日:2026-06-07。※過去データであり将来を保証するものではない)。短期は読めない。長期は収束する。この非対称性が全てだ。
俺の口座で言えば、オルカン(NISAつみたて枠)を積み立て始めたのは2025年から。まだ1年弱だ。当然、含み益が出る月もあれば、減る月もある。正直に言うと、俺は口座が赤くなっても大して何も感じない。「あー、下がってるな」で終わる。強がりじゃない。勝負してる時間軸が20年だから、1年目の上下なんて、そもそも視界に入ってないだけだ。実際、含み損19%でも積立を止めなかった理由に書いた通り、売らなかった答えは「今、売る根拠がなかった」、それだけだった。
もうひとつ、動じない理由がある。現金を常に資産の30%は持っていることだ。この現金をいくら積むかは、生活防衛資金は何ヶ月分が目安?で書いた防衛ラインと地続きの話。これがあると、株が下がっても「現金で耐えればいい」と思える。狼狽売りの引き金は、たいてい「現金がない焦り」なんだ。
相場が動くことと、自分が動くべきかは、まったく別の話だ。
そもそも、損切りしたくなる商品を買うな
ここまで制度と複利の話をしてきたが、もっと手前に問題がある。そもそも「損切りしたくなる商品」を選んでる時点で、半分負けてる。
たとえばレバレッジ型ETF。金融庁が公式に「2日以上の期間では原指標の倍率と一致せず、中長期で価値が逓減する。長期保有に不向き」と注意喚起している(出典:金融庁「レバレッジ型・インバース型ETF等への投資にあたってご注意ください」)。新NISAの対象商品からレバレッジ投信が除外されてるのも同じ理由だ。
仕組みを数字で見ると一発でわかる。原指数が「+10% → −10%」と動くと、結果は−1%。ところが2倍ETFは「+20% → −20%」で−4%になる。倍率2倍なら−2%で済みそうなのに、実際はもっと削れる。横ばいの往復相場で、持ってるだけでジワジワ目減りする。時間が味方じゃなく、敵になる商品だ。
テーマ型投信も近い。金融庁のモニタリングは「中長期保有より、上昇後に売却して利益を得るスタイルに馴染む。売買タイミングの見極めが鍵で、初心者には困難」と指摘してる(出典:金融庁「顧客本位の業務運営のモニタリング結果」)。話題がピーク=高値圏で売り出されやすい。買った瞬間が天井、なんてことになる。暗号資産に至っては、金融庁が「価値を保証するものではない」と明言してる。値動きの裏に企業業績のような拠り所がない。
これらに共通するのは、「持ち続ける前提で設計されてない」こと。だから下がると損切りしたくなる。当たり前だ。
逆に、俺が持ってる器はこうだ。コアはオルカン(つみたて枠)とS&P500(成長枠)。eMAXIS Slim全世界株の信託報酬は年0.05775%——時間が味方になる低コスト分散。サテライトは国内高配当6銘柄(JT・KDDI・三菱商事・三菱UFJ・ENEOS・第一生命HD)を特定口座で。配当が入ってくると、株価が下がっても「握力」になる。下落時こそ買い増せる。損切りボタンを押す動機が、構造的に生まれない商品しか持たない。
投資と投機の境界線は、チャートじゃない。「放置できるか」だ。
こういう人は、損切りでもいい
念のため言っておく。俺は「絶対に売るな」とは言ってない。
- 生活が本当に苦しくて、現金が必要——これは損切りじゃなくて生活防衛だ。売っていい。むしろ投資に回す前に、生活費を確保すべきだった、という順番の話。
- 個別株を一発逆転狙いで集中買いした——これは投機だ。投機にはルールとしての損切りが要る。ただしそれはNISAでやるべきじゃなかった。
- そもそも全世界株ですら夜眠れない——リスク許容度が合ってない。商品を見直すサインだ。
問題なのは、「下がって怖くなったから、低コストの全世界株インデックスを、NISA口座で、最高値圏で投げる」——この組み合わせだけだ。これは一番やっちゃいけないやつ。
今日やること
- 自分のNISAの中身を一度確認する。レバレッジ型・テーマ型・暗号系が混ざってないか。混ざってたら「なぜ持ってるか」を言語化する
- 現金比率を計算する。総資産の30%を切ってたら、次の積立は少し現金を厚めにして「耐える土台」を作る
- 含み損が出ても見る頻度を減らす。毎日見るから売りたくなる。月1で十分だ
- 「20年後にいくら欲しいか」を一度紙に書く。勝負してる時間軸を間違えない
関連記事
- NISA損切り民よ、その判断、待て。含み損を抱えた俺が出した結論
── 去年の暴落局面で、俺自身が「売るか」と迷った時の記録。制度じゃなく心理の話はこっち。 - 含み損19%でも積立を止めなかった理由
── 「含み損は売った瞬間に損失になる」を、自分の口座で証明した回。 - 生活防衛資金は何ヶ月分が目安? 会社員6ヶ月・自営12ヶ月、俺は100万円と決めた
── 狼狽売りの引き金は「現金がない焦り」。その土台の作り方。
まとめ
「新NISA損切りした、貧困舐めんな」——その叫びは、相場に負けたんじゃない。最高値圏で、自分の不安に負けただけだ。
損切りは含み損を確定し、非課税枠を捨て、税の救済も失い、そして何より、複利が効くたった1つの条件——「市場に居続けること」——を自分の手で断ち切る。20年で元本割れゼロのデータがあっても、5年で降りたら意味がない。
確実に増えないものは、投資じゃない。投棄だ。そして、降りた瞬間に増える可能性をゼロにするのが、損切りという名の投棄だ。
俺は今年で金融資産を500万に乗せにいく(5月時点で470万)。派手なことは何もしてない。淡々と買って、現金を3割握って、売らない。それだけだ。
未来は当てに行かない。俺はただ、航路に居続ける。
※本記事は俺個人の見解・体験を綴ったものであり、特定の金融商品の購入を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。


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