結論を先に言う。相場が動いても、配分はいじるな。決めたら動くな。
今月、これを裏付けるニュースがあった。片山さつき財務相兼金融相が「GPIFをはじめとする年金基金に、日本の金融資産へのさらなる投資を後押ししたい」と発言し、市場は即座に円高・債券高で反応した。293兆円が動くと連想されただけで、市場が揺れたわけだ。ところが結末はどうなったか。政府関係者はロイターの取材に「基本ポートフォリオの変更は想定していない」と否定。関係者からは「政権の意向で積立金を毀損すれば大きな批判を受ける」という慎重論まで出た。大臣が号令をかけても、配分の設計図には手を触れさせない。それが国民の年金を運用する側の答えだった。
なぜそこまで頑ななのか。それは「決めた配分を動かさない」こと自体が、GPIFの運用哲学の核だからだ。相場に合わせて配分を動かす方が非効率だと、GPIF自身が公式に言い切っている。俺個人の精神論じゃない。今日はこの騒動を入り口に、GPIFの基本ポートフォリオを材料として、なぜ「動かさない」が最適解になるのかを整理する。
GPIFの基本ポートフォリオという事実
GPIFは2026年3月末時点で293.6兆円を運用している。この規模の資金を動かすのは、個人の売買とはわけが違う。だからこそGPIFは「基本ポートフォリオ」という配分の設計図をあらかじめ固定し、そこから大きく外れない運用を続けている。
基本ポートフォリオの内訳はこうだ。
- 国内株式:25%(乖離許容幅±6%)
- 外国株式:25%(乖離許容幅±6%)
- 国内債券:25%(乖離許容幅±6%)
- 外国債券:25%(乖離許容幅±5%)
2026年3月末時点の実際の構成比は、国内株式23.81%、外国株式24.80%、国内債券26.91%、外国債券24.48%。目標の25%からわずかにずれてはいるが、どれも許容幅の内側に収まっている。GPIFはこの配分をXでも定期的に発信していて、直近の投稿でも同じ数字が示されていた。
2025年度の運用結果は、収益額41兆3,995億円、収益率+16.47%。もちろん国内外の株高という追い風が大きい。ただ重要なのは、この追い風を取り切れたのが、相場の上下に合わせて配分を組み替えず、決めた配分を守り続けた運用だったという点だ。
出典:GPIF「基本ポートフォリオの考え方」、GPIF「2025年度の運用状況」
なぜ動かさない方が良いのか
ここが今回いちばん重要な部分だ。GPIFは乖離許容幅という仕組みをわざわざ用意している。目標の25%からある程度ずれても、放置していい範囲をあらかじめ決めているということだ。株式は±6%、外国債券は±5%。この幅の中で市場が動く分には、何もしない。
なぜか。GPIF自身が公式にこう説明している。
長期的な運用においては、短期的な市場の動向により資産構成割合を変更するよりも、基本となる資産構成割合を決めて長期間維持していくほうが、効率的で良い結果をもたらすことが知られています。
これは希望的観測でも精神論でもない。293兆円という規模で長期運用を担う機関が、自分たちの投資哲学として明文化している一文だ。
注意してほしいのは、GPIFが「何もしない」わけではない点だ。許容幅を超えそうなほど配分がずれた時には、元の25%に戻す調整はする。だがそれは「決めた設計図に戻す」作業であって、「相場を読んで設計図を書き換える」こととはまったく別物だ。決めた配分を守ることと、相場の動きに反応して配分を変えることの間には、深い溝がある。乖離許容幅は、その誘惑への防波堤として設計されている。
もちろん、GPIFは年金の支払いという使命を持つ機関で、個人とは目的もリスク許容度も違う。25%×4という配分そのものを真似ろという話ではない。借りるべきは中身ではなく、「短期の値動きで設計を変えない」という考え方の方だ。
個人投資家が動かしたくなる心理
理屈は分かっても、実際に含み損を抱えると心が揺れる。評価額が減った画面を見て、配分を変えたくなった夜が君にもあるはずだ。これは自然な反応だ。評価額が目に見えて減れば、「今のうちに配分を変えるべきでは」という思考が湧いてくる。逆に含み益が膨らんだ時も、「利益を確定させないと消えてしまうのでは」という焦りが出る。どちらも同じ根っこの感情だ。
SNSを見れば拍車がかかる。「今こそ債券を減らせ」「この銘柄に乗り換えろ」といった煽り投稿は、いつの時代も一定数流れてくる。乗った人が短期的に得をしたように見える瞬間もあるから、余計にタチが悪い。
だが忘れてはいけないのは、頻繁に配分をいじる行為そのものにコストが伴うということだ。口座や商品によっては売買手数料や税金がかかるし、NISA内の非課税・ノーロードの商品であっても、「判断を誤るリスク」だけは必ず付いてくる。動かさなければ引き受けずに済むリスクを、わざわざ取りに行っている。
「長期保有すれば結局は元が取れる」という反論もあるだろう。だがそれは配分をいじらなかった場合の話だ。相場のたびに配分を組み替えれば、そのたびに判断の回数が増え、判断の数だけ間違える機会も増える。「長期保有」の前提そのものが、自分の手で崩れていく。
放置系というスタイルは、この心理的な揺れに対する具体的な処方箋だ。決めた配分を、決めた通りに積み立て続ける。それだけでいい。
俺の口座でも同じことが起きている
俺自身の口座も、器を決めてから一度も配分を変えていない。NISAつみたて枠はオルカン、NISA成長枠はS&P500、特定口座は個別株7銘柄とVYM。この3つの器の役割分担は、最初に決めた時から動かしていない。
含み損が出た月も、含み益が出た月もあった。それでも「今だけ配分を変えよう」とは考えなかった。変えたのは配分ではなく、積立額だけだ。オルカンへの積立を、2026年8月から月3万円→月4万円に増やす。これは相場を見て決めたことではなく、生活防衛資金の目標に到達したから、次の予定通りに動かしただけだ。積立の種銭をどう作ったかは個人年金を解約して「種銭」にした話に書いた通りで、ここでも「決めた設計に従って動かす」だけを繰り返している。
結果はどうか。直近12ヶ月の資産推移は累計で+19.8%。もちろん相場が良かった追い風はあるが、途中で配分をいじって降りていたら、この数字は取れていない。
俺の資産全体に占める現金比率は、生活防衛資金の到達によって、以前より安定した水準まで積み上がっている。何ヶ月分の生活費に相当するかという軸で見れば、余裕は着実に増えている。この安定があるから、相場の上下を見ても配分を動かす理由が生まれない。
保険の貯蓄型商品のように「解約すれば元本割れ」という縛りで動けなくしている商品と違い、NISAは制度上いつでも売れる。だからこそ、動かせるという事実と、動かすべきかどうかは別の話になる。俺はいつでも動かせる自由を持ったまま、あえて動かさないという選択をしている。
今日やること
- 自分のNISA・特定口座の配分比率を、一度書き出してみる
- その配分を決めた時の理由を思い出す。今も有効な理由か確認する
- 直近1ヶ月で「配分を変えたい」と思った瞬間があったか振り返る
- あれば、その引き金がニュースかSNSか含み損益かを特定する
- GPIFの基本ポートフォリオを実際に見て、自分の配分と比べてみる
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まとめ
GPIFは293.6兆円という規模で、動かさないことの合理性を証明している。相場が動くことと、自分が動くべきかどうかは、まったく別の話だ。俺は配分を決めたら動かさない。動かしたのは積立額だけだ。
動かさない勇気が、一番のリターンになる。
本記事は特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。資産配分の判断は、ご自身のリスク許容度に応じて行ってください。


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