昨日、7月20日の夜。W杯決勝を見ながら財布の紐を緩めた人は、たぶん少なくない。俺自身は決勝を見てないけど、大会期間中にFIFAが稼いだ金額を知って笑った。約2兆円。今大会だけで前回のカタール大会から7割増えたらしい。
正直、この数字自体はどうでもいい。俺が引っかかったのは、なぜその2兆円が集まったのかって話の方だ。答えは単純で、熱狂してる人からは金が取りやすいからだ。これは他人事じゃない。君や俺の財布にも、毎回同じ仕組みが仕掛けられてる。
だから今日は、W杯という2兆円ビジネスを題材に、「なぜ熱狂すると財布の紐が緩むのか」を3つの理由で整理する。
先に持ち帰ってほしい1文を言う。財布の紐が緩むのは意志が弱いからじゃない。熱狂を仕組みだと知っていれば、対策も仕組みで打てる。
なぜW杯決勝の夜、財布の紐は緩んだのか
FIFAの収入は3本柱でできてる。最大の柱が放映権で6000億円規模。次にチケット・ホスピタリティで4700億円規模。3本目がスポンサー収入。大会単体で1.4兆円規模、大会サイクル全体では2兆円に届いた計算になる(FIFA公式発表より)。
数字だけ見ると「すごいビジネスだな」で終わる話だ。でも俺が気になったのは、この3本柱のうち2本目、チケットの値付け方だ。値段が上がるほど、逆に「欲しい」が強くなる。この矛盾した心理こそが、熱狂したときの財布からお金を引っ張り出す仕組みそのものだ。
ホットな自分に、判断を渡すな
行動経済学に「ホット・コールド共感ギャップ」という考え方がある。提唱したのはジョージ・ローウェンスタインという学者で、要は「興奮している自分」と「冷静な自分」はまったく違う判断を下す、という話だ。厄介なのは、冷静なときの自分は、自分が興奮したらどう判断するかを正しく予測できない点にある。「自分は大丈夫」という今の冷静な判断は、当日の自分にはそのまま通用しない。
これ、推しのライブに行ったことがある人ならわかると思う。会場でしか買えない謎の光るグッズとか、家に帰ったら絶対使わないタオルとか。冷静に考えたら「いらない」ってわかるのに、会場にいる間はまったく違う自分が財布を開いてる。W杯のスタジアムで高額チケットを買った人の多くも、たぶん同じ状態だったはずだ。
値上がりは「価値の証拠」に見える罠
2つ目は希少性ヒューリスティックってやつだ。人は「手に入りにくいもの」ほど価値が高いと直感的に判断してしまう。ダイナミックプライシングは、この心理をそのまま値付けに使ってる。今大会から初めて導入されたこの仕組みで、決勝の正規チケットは安い席でも30万円前後、高い席は100万円を超えた。人気のカードほど値段が上がる。すると「値段が上がってる=みんなが欲しがってる=価値がある」という順番で納得してしまい、そこに「残りわずか」の焦りまで乗ってくる。
これは航空券や人気ライブのチケットでも同じ構造だ。値段そのものが「買う理由」になってしまう。冷静に考えれば、値段は需要と供給が決めてるだけで、価値を保証するものじゃないのに。
冷静なうちに、選択肢ごと縛っておく
3つ目はプリコミットメント(コミットメントデバイス)。ユリシーズ契約とも呼ばれる。語源はギリシャ神話で、オデュッセウスが魔性の歌に惑わされないよう、自分の体を船の帆柱に縛らせた逸話から来てる。要は「後の自分が誘惑に負けそうなら、今のうちに選択肢自体を消しておけ」という自己防衛策だ。
お金の話に置き換えるなら、先取り貯蓄が一番わかりやすい例だ。給料が入った瞬間に投資分を天引きしておけば、「今月は使いすぎたから今日はやめとくか」なんて、ホットな自分に判断させる場面自体がそもそも来ない。旅行や祭りに行く前に、使っていい額を別口座に移しておくのも同じ理屈だ。
俺自身、給料日に3万円をオルカンへの積立に回す設定を組んである。判断する余地を最初から消しておけば、使いすぎた月でも積立だけは止まらない。
「使うのを我慢する」と「使っていい枠を先に決める」は似ているようで別物だ。前者は当日のホットな自分と戦うことになるが、後者はそもそも戦う場面自体をなくす。俺が選ぶのは後者だ。
実はここ最近、予算オーバーした記憶がない。理由は単純で、判断する場面自体が来ないからだ。月3万円は給料日に天引き、残りは使う前提で口座を分けてある。「我慢した」んじゃなく、「我慢する機会そのものがなかった」というのが正確なところだ。
こういう人は要注意
「少額だから別にいいだろう」と思うかもしれない。でもこの罠が厄介なのは金額の大きさじゃなく回数だ。推し活、旅行、祭り、限定セール。熱狂する機会は年に何度もあって、1回数千円の判断ミスが積み重なる方が、実は家計には効いてくる。
熱狂に弱いのは別に悪いことじゃない。人が感情で動く場所には金が集まるようにできてるんだから、そこに反応するのは正常な脳の働きだ。むしろ注意した方がいいのは、「自分は冷静だから大丈夫」と思ってる人の方だと思う。冷静な自分を過信してる人ほど、ホットな状態になったときの落差が大きい。
ただし、上限を先に決めてある人は別だ。枠の中で熱狂に身を任せるのは、我慢じゃなくて正しいお金の使い方の一つだ。「予算を決めると楽しめなくなるんじゃないか」と思うかもしれないが、実際は逆だ。金額の天井さえ決まっていれば、あとは何に使うか当日は自由に選べる。財布の心配をせずに熱狂できる。
今日やることは
やることは1つだけでいい。次に「熱狂する予定」が入ってる日──推しのライブでも旅行でも祭りでもいい──その前日までに、使っていい上限額を決めて、別の口座かアプリの中で分けておくこと。当日の自分に、財布の紐を握らせない。それだけで、罠の9割は避けられる。
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使えない俺が実験予算まで作って鍛えていた「使う力」は、まさかW杯の熱狂に一晩で追い抜かれるとは思わなかった。使えない罠と使いすぎる罠、俺たちは結局どちらにも転びうる。その境目をどう引くかは、「使う力」に気づいた話と使う力を鍛える実践編で書いた話が土台になる。
まとめ
FIFAが2兆円稼いだ話自体は、俺にとってはどうでもいい。大事なのは、熱狂したときに財布の紐が緩むのは意志が弱いからじゃなく、脳の仕組みだってことだ。ホットな自分に判断させない、値上がりを価値だと錯覚しない、冷静なうちに選択肢を縛っておく。この3つを知ってるだけで、次に熱狂する日の自分をちゃんと守れる。


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