先日こんなFP記事を読んだ。「夏のボーナス50万円を全額NISAに入れる」と言い出した夫に、妻が不安を覚える——という相談ものだ。FPの回答は、ボーナスは車検代や固定資産税の原資だから全額投資は危ない、タイミング次第で元本割れもある、だから分散しましょう、というもの。
正直、こういう記事は正論だ。一瞬「まあそうだよな」と揺れる。
でも読み終わって残ったのは、「で、結局いくらにすればいいの?」という宙ぶらりんの感覚だった。全額はダメ、バランスが大事、分散しましょう。聞こえはいいが、何ひとつ決めてくれていない。
先に俺の結論を言う。**俺も夏ボーナスを全額NISAには入れない。でもそれは”暴落が怖い”からでも”金融庁がダメと言ってる”からでもない。その50万には、入る前から役割が決まってるからだ。**理由は3つある。
なぜ俺は夏ボーナスを全額NISAに入れないのか
理由1:その50万には、入る前から”名前”がついてる
ボーナスを「余った金」だと思っているうちは、全額投資か貯金かで一生悩み続ける。
俺の中では、入ってきた金には入った瞬間に名前がつく。生活防衛資金の穴埋め分、年間特別支出(車検・固定資産税・家電の買い替え)のプール分、そして残りの”当面使わない金”。投資に回るのは、いちばん最後の名前がついた分だけだ。
生活防衛資金をいくら持つかは、実は専門家でもバラバラに割れている。経済評論家の山崎元は「3カ月分で十分」と言い(ダイヤモンド・オンライン)、一方でインデックス投資家の水瀬ケンイチは著書で「生活費の2年分」を主張する(フォレスト出版)。同じ『ほったらかし投資術』の共著者同士でこれだけ違う。
俺自身はキャッシュを資産の30%は必ず持つと決めている。つまり水瀬寄りの厚めだ(俺が具体的にいくらに着地したかはこの記事に書いた)。だからボーナスが入っても、まず「この器は足りてるか」を確認する。足りてなければボーナスは投資じゃなく現金に回る。役割が決まってる金は、そもそも投資の候補に入らない。
理由2:「目減りが怖い」が理由なら、それは間違い
さっきのFP記事はこう脅す。「50万円が40万円に目減りしたまま解約する羽目になるかもしれない」と。
たしかに怖い。でもこの怖さの正体を、ほとんどの人が取り違えている。
データを見よう。資産運用大手のVanguardは、まとまった金を一括で投じるのと、何回かに分けて投じる(ドルコスト平均法)のとを比較して、一括投資のほうが約3分の2の確率で勝つと結論づけている。しかも2012年と2023年、別々のデータで二度検証して同じ結果だ(Vanguard 2023年版レポート)。株の比率が高いほど、分ける期間が長いほど、一括が有利になる。
つまり「分けたほうが安全」というのは、期待値で見ると逆なんだ。
じゃあなぜ50万の目減りが怖いのか。**金額が大きいからじゃない。その50万が”来年使う金”だからだ。**来年の車検代を株に突っ込めば、金額が5万でも50万でも事故る。逆に20年使わない金なら、目減りしても握っていればいい——Vanguardのデータが効くのはまさにここ、「当面使わない長期マネー」が大前提だ。
怖さの正体は金額じゃない。時間軸だ。不安なのは50万が大きいからじゃなく、その金の役割が決まってないからなんだよ。
理由3:そもそも金融庁は一括投資を否定してない
この手の記事はたいてい「金融庁も長期・積立・分散を推奨している」と権威を持ち出す。これがいちばんタチが悪い。
金融庁の公式資料を実際に開いてみた。たしかに「積立投資により、一括投資に比べ高値掴みのおそれの軽減が期待できる」とは書いてある。でもその同じ資料の中で、金融庁は**「成長投資枠を活用し、まとまった資金を一括投資する」パターンを、NISAの正規の使い方として堂々と紹介している**(金融庁 公式説明資料 p.32・34)。
つまり金融庁は、積立の利点を述べてはいるが、**「一括はダメ」「ボーナス一括は禁止」とはどこにも言っていない。**むしろ一括投資を選択肢として並べて見せている。
「金融庁がそう言ってるから全額はダメ」という空気で君を脅す記事は、原文をちゃんと読んでいない。権威の借り方を間違えているだけだ。
こういう人は、全額入れてもいい
ここまで読んで「じゃあ全額はダメなんだな」と受け取ったなら、それも違う。
生活防衛資金が別の口座にちゃんと積んであって、この50万は当面(最低でも数年)使う予定がない——そう言い切れる人なら、全額を一括でNISAに入れるのは、むしろ理屈に合っている。さっきのVanguardの「3分の2で一括が勝つ」が、そのまま君の味方になる。
全額か、ゼロか、で悩むこと自体がズレてるんだ。問われているのは金額じゃなく、その金に名前がついているかどうか。それだけだ。
俺は去年の冬のボーナスを、こう分けた
きれいごとを並べても仕方ないから、自分の実例を出す。去年の冬のボーナス、俺は手をつける前に、まず全部に名前をつけた。
- 10万円を生活防衛資金にプール——器がまだ目標に届いてなかったから、ここが最優先
- 特別費(中期資金)と普通預金へ——車検や数年内に使うお金。株には入れない
- Mac miniの購入資金に充当——これも立派な”名前のついた金”だ。欲しかった道具には堂々と使う
- そして最後に、「当面使わない」と言い切れた10万円だけを、成長投資枠でS&P500に一括で入れた
順番が全てだ。投資に回した10万は、他の名前を全部つけ終わった後に残った金。だから一括でぶち込んでも、何ひとつ怖くなかった。さっきのVanguardのデータが効くのは、まさにこの10万——使う予定のない、純粋な長期マネーだからだ。
ちなみに毎月のオルカン積立(月3万・つみたて枠)は、ボーナスが入ろうが入るまいが、ペース自体はいじらない。総資産は今470万円ほど、年内500万が目標だ。ボーナスを”特別な金”として身構えること自体をやめる。それも放置の一部だ。
実際、世間のボーナスの使い道を見ても、資産形成に回す人が約49%、そのうち86%がNISAを選んでいる(オカネコ調べ)。NISAに入れること自体はもう普通だ。問われているのは「いくらを」じゃなく「どの名前の金を」入れるか、なんだよ。
今日やること
- ボーナスが入ったら、まず3つの名前をつける——「生活防衛資金」「年間特別支出」「当面使わない金」
- 自分の生活防衛資金が今、生活費の何カ月分あるか数える(足りなければボーナスは現金へ)
- 名前をつけた残り、”当面使わない金”だけを淡々と投資に回す
- 「全額か、ゼロか」で悩むのをやめる。問いの立て方がそもそも間違っている
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- 生活防衛資金は何ヶ月分が目安? 会社員6ヶ月・自営12ヶ月、俺は100万円と決めた → 3カ月から2年まで諸説ある中で、俺が「約100万円」にどう着地したかを書いた。
- 新NISA・iDeCo・現金の使い分け方|俺の3つの器の中身を全部出す → 「ボーナスに名前をつける」の元になっている、器で考える発想の本体。
まとめ
夏ボーナスを全額NISAに入れるべきか。この問いに「ダメ」とだけ答える記事は、いちばん大事なことを言っていない。
問題は金額じゃない。その金に名前がついているかだ。名前さえ決まっていれば、全額入れるのも、一円も入れないのも、どっちも正解になりうる。逆に名前を決めないまま「いくらにしよう」と悩むから、一生ボーナスのたびに迷う。
暴落が怖いんじゃない。金融庁が止めてるわけでもない。役割の決まってない金が、怖いだけだ。
※本記事は俺個人の投資方針と判断を書いたものであり、特定の金融商品の購入を勧めるものではない。生活防衛資金の額や投資配分は人それぞれ。最終的な判断は君自身の責任で。


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