「投資家=強欲」「自分さえ良ければいい連中」——投資の話をすると、たまにそういう目で見られる。リテラシーを高めるのも、結局は自分が得するためだろ、と。
正直、その見方は半分わかる。俺だって、最初は自分の老後のために始めた。
でも、調べていくうちに考えが変わった。きっかけは、J-FLEC(金融経済教育推進機構)の「金融リテラシー調査(2025年)」だ。日本人全体の正答率は53.8%。2022年の55.7%から1.9ポイント下がって、過去最低の水準に沈んでいる。そして金融経済教育を「受けた」と認識している人は、わずか8.7%しかいない。だがその層の正答率は66.7%で、未受講層の52.6%を大きく上回る(出典:J-FLEC「金融リテラシー調査2025年」/公表ニュース)。
教育を受けた人は、ちゃんと賢くなる。なのに、受けた人がほとんどいない。この国はそういう状態にある。
結論を先に言う。俺は淡々と積み立てる。自分のためだ。でも、それは結果的に国を強くしている。理由は4つある。
理由1:俺の積立金は、企業に回って生産性を押し上げる
オルカンに月3万、iDeCoに月1万。俺が口座に放り込んだ金は、そこで止まらない。投資信託を通じて世界中の企業の株や債券になり、銀行に置けば融資の原資になる。つまり、誰かの事業や設備投資の燃料として働きに出る。タンス預金との一番の違いはここだ。
賢い個人が増えれば、この「金が働きに出る」量が増える。Boikos らの研究(2025年)は、61か国・1999〜2014年のデータを分析し、金融リテラシーが高い国ほど、一人当たりGDPの成長率が高いという関係を報告している(Boikos et al., 2025, International Journal of Finance & Economics)。
ただ、これは「リテラシーを上げれば必ず成長する」と証明したものではない。豊かな国だから教育が行き届いてリテラシーが上がる、という逆向きの流れも当然ある。因果は一方通行じゃない。それでも、賢い個人と強い経済が同じ方向に並んでいる、という事実は重い。
俺の月3万は、世界のどこかで働いている。
理由2:金融リテラシーが上がるほど、全体の「底」が上がる
格差、格差と騒がれる。でも俺が本当に問題だと思うのは、格差そのものより、底辺に沈んだまま抜け出せない貧困のほうだ。上が伸びることより、下が底上げされることのほうが、国としては効く。
ここでリテラシーが効いてくる。Grohmann らの研究(2018年)は、金融リテラシーが金融包摂(口座保有や金融サービスへのアクセス)を改善し、その効果は所得水準の高低を問わず成立する傾向を示している(Grohmann, Klühs & Menkhoff, 2018, World Development)。金持ちだけが得をする話じゃない、ということだ。
俺自身がそうだった。最初に資産形成として手を出したのは、貯蓄型の生命保険だった。「貯まりながら守れる」という言葉を信じていた。後で解約したら、戻ってきたのはほぼ掛け捨て同然。あのまま気づかなければ、俺の底は今より一段低かった。知識ひとつで、自分の地面が持ち上がる。それを身をもって知った。
底が上がれば、国の足腰も強くなる。
理由3:リテラシーがなければ、君はカモにされる
賢くなることには、攻めだけじゃなく守りの意味もある。知らない人間は、合法的に毟られる。
Lusardi と Tufano の研究(2009年)は、「負債リテラシー」が低い人ほど、高コストな手段で金を借り、余計な手数料や債務を抱え込みやすいことを示している(Lusardi & Tufano, 2009, NBER)。リボ払い、年率の高いローン、よくわからないまま入った保険。知識の欠落は、そのまま誰かの利益になる。J-FLECの調査でも、保険やローン分野の正答率は5割前後にとどまっている。一番カモられやすい分野が、一番わかっていない。
俺はこれを実体験している。第一生命を解約したあと、個人情報を巡るトラブルがあった。泣き寝入りせず、生命保険協会、個人情報保護委員会、最後は金融庁まで話を上げて動かした。あのとき知識がなければ、「まあいいか」で終わっていた。詳しくは別記事に時系列で書いた(第一生命に個人情報を使われた実録──解約後も誕生日メールが届いた)。
貯蓄型保険の手数料に毟られ続けるのと、低コストのオルカンを淡々と積むのと。どちらが自分と国の金を守るかは、もう書くまでもない。カモが減れば、その分だけ国は健全になる。
理由4:金融リテラシーの高い個人が、国の暴落ショックを吸収する
ここが一番言いたいところだ。リテラシーの価値が一番むき出しになるのは、平時じゃなく有事だ。
Klapper らの研究(2013年)は、金融リテラシーの高い個人ほど手元の流動資産を多く残しており、その傾向は金融危機のさなかでいっそう強まることを報告している(Klapper, Lusardi & Panos, 2013, NBER Working Paper)。手元に金がある個人は、危機でも消費を止めずに済む。一人ひとりのその粘りが積み重なれば、マクロのショックを和らげる方向に働きうる、という話だ。これも断定はしない。だが、筋は通っている。
俺の現金30%ルールは、まさにこれだ。資産の3割は常に現金で寝かせている。一見、機会損失に見える。だが暴落が来たとき、この3割があるから狼狽売りをしなくて済む。実際、含み損が一時−19%まで沈んだ局面でも、俺は一株も売らなかった(含み損−19%でも積立をやめなかった理由)。売らなかったどころか、淡々と買い増した。
暴落で投げ売る個人が増えれば、相場はさらに崩れる。逆に、売らずに踏みとどまる個人が多い国は、それだけ崩れにくい。俺の30%は、自分の保険であると同時に、国の緩衝材だ。
こういう人は、まだ気にしなくていい
ここまで読んで、「自分一人が淡々と積み立てたところで、国なんか変わらない」と思った君へ。その通りだ。俺一人の月3万で日本のGDPは1ミリも動かない。
だが話が逆だ。これは「一人で国を変えろ」じゃない。8.7%しか教育を受けていないこの国で、賢い個人が一人増えること自体に意味がある、という話だ。底上げも、ショック耐性も、母数が増えてはじめて効いてくる。君が抜けると、その分だけ母数が減る。それだけのことだ。
ただし、順番は守ったほうがいい。生活防衛資金がまだ貯まっていない人は、投資より先にそっちだ。生活費の半年分を現金で確保するのが先。土台のないところに積み立てを乗せると、暴落のときに真っ先に投げ売る側に回る。それでは国の緩衝材どころか、自分の足を撃つ。順番を間違えないことが、結局は一番リテラシーが高い。
今日やること
- 積立を止めない。 今動いている積立があるなら、相場が何を言おうと淡々と続ける。止めた瞬間に「複利」と「習慣」を同時に失う。
- 現金比率を確認する。 総資産に対して現金が何割あるか、今日いちど数えてみる。暴落で売らずに済む水準か。俺の基準は30%。
- 苦手分野を一つだけ潰す。 金利・インフレ・保険——J-FLECで正答率が低いのはこのあたり。全部やる必要はない。今日は一つでいい。
- 入っている保険を一本、明細まで見る。 「貯蓄型」と書いてあるなら、戻り率と手数料構造を確認する。守りのリテラシーは、ここから始まる。
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- 第一生命に個人情報を使われた実録──解約後も誕生日メールが届いた 知識がなければ泣き寝入りしていた、守りのリテラシーの実例。
まとめ
金融リテラシーは、自分のためだけのものじゃない。賢い個人の金は企業に回り、底を上げ、詐欺を減らし、暴落を吸収する。一人ひとりは小さくても、母数が増えれば国の足腰になる。
「投資家は自分さえ良ければいい」——その目に、俺はもう反論しない。証明する必要もない。ただ淡々と買い続けるだけだ。
俺は、自分のために積み立てる。それで国が強くなるなら、文句のつけようがない。
※本記事は俺個人の見解・体験を綴ったものであり、特定の金融商品の購入を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。


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