「親の老後資金は、預金一択でいい」 これ、よく聞くアドバイスだ。70代に投資はリスクが高い、だから親の金はとにかく安全に銀行に置いておけ、と。
親に投資を勧めるべきか、家を売って残った資金をどこに置くか——これは多くの40代が一度は直面する問題だ。俺自身、ここで一回ちゃんと考えた。
正直、こういう常識を聞くと一瞬は揺れる。父は今年75歳。残された時間も体力も、若い頃のようには使えない。冒険する歳じゃない、というのは確かにわかる。
でも、俺は父にその選択肢を勧めなかった。 父は、自宅を売って残った余剰資金のうち、当面使い切る予定のない200万円分を、オルカン(eMAXIS Slim 全世界株式)と個人向け国債(固定3年・固定5年)に振り分けた。
キミの親が同じ立場になった時、参考になる順序設計の話をしたい。前提を一つ整理した上で、理由を3つ挙げる。
※本記事の数字や経緯は父本人に確認のうえ、了承を得て公開している。
前提:運用に回す前に、毎月の固定支出を確保する
そもそも「余剰資金」とは何か。 ここを定義しないまま投資商品の話をしても、議論の足元が崩れる。
親の資産運用をどう設計するか考える時、最初にやるのは商品選びじゃない。生活コストの確認だ。
父の場合、毎月の固定支出の中で目立つのは通院と薬代でおよそ2万円だ。 75歳という年齢を考えれば、これは減るより増える方向に動く支出だ。今後一段重くなる可能性も織り込んでおく必要がある。
公的年金で日常の生活費はおおむね回っている。だから、家を売却して残った資金は当面の生活には必要ない金ではある。 ただし「必要ない」と「使い切らない」は違う。父が今後どこかで医療費が膨らむ可能性、施設に入る可能性、孫に何か残したい意思——こうした不確定要素を織り込んだ上で本人と話し合い、当面5年程度は使う予定がないと判断できた200万円を運用に回した。
順番が大事だ。 毎月のキャッシュフローを確保する → 当面動かさなくていい余剰を切り出す → その余剰の置き場を考える。 この順を踏まないと、運用の議論はそれっぽく見えても、危険な方向に走る。
満期と残り時間を合わせる──個人向け国債3年・5年を選んだ理由
個人向け国債の固定3年と固定5年を選んだのは、父本人が「長く塩漬けにする商品はイヤだ」とハッキリ言ったからだ。
これは投資家として鋭い感覚だと思った。 75歳という年齢を踏まえると、10年もロックされる商品は流動性として重い。万一の時、家族が動かしにくい。本人の人生の射程に対して、商品の年限が長すぎる。
そこで選んだ商品の利点はシンプルだ。 個人向け国債は、発行から1年経過すれば中途換金もできる。元本割れもない。固定金利だから途中で利息が下がる心配もない。出口の柔軟性と元本確保の両立、という意味で高齢者の余剰資金にはハマる商品だ。 (参考:財務省「はじめての国債」、3タイプの比較は「商品概要」)
個人向け国債には変動10年というタイプもあって、インフレ局面では金利連動のメリットが効く。ただ、それは75歳の父に勧める商品ではないと判断した。10年は、父の人生の射程からするとロックが長すぎる。 満期の年限は、本人の人生の射程に合わせる。これが最初の原則だ。
インフレで現金は目減りする──オルカンを少額混ぜた理由
家を売って手元に来たお金を、全額預金で寝かせる選択肢もあった。父が最初に口にしたのもそれだ。 だが、俺はその案に首を縦に振らなかった。
理由は単純で、現金の最大のリスクがインフレで実質的に目減りすることだからだ。
総務省の発表によれば、2026年3月の全国消費者物価指数は、生鮮食品除く総合で前年同月比+1.8%の上昇となっている。 (出典:総務省統計局「2020年基準 消費者物価指数 全国 2026年(令和8年)3月分」 取得日:2026-05-04)
仮に200万円を全額預金で寝かせたら、年2%のインフレが続いた場合、5年後の実質価値は約180万円相当まで目減りする計算になる(2,000,000 × 0.98⁵ ≒ 1,807,840円)。これは「銀行に置いておけば安全」という常識と、完全に矛盾する事実だ。
だから父のポートフォリオには、インフレに対する保険としてオルカンを少額混ぜた。比率は本人と相談して決めた。リスク資産の割合は、本人が「これくらいなら値動きを見ても眠れる」と言える範囲に絞ってある。 父は最終的に「これくらいなら、孫に残る分かなと思える」と笑っていた。リスクの取り方は、人によって金額じゃなく腹落ちで決まる。
相場が動くことと、自分が動くべきかどうかは、まったく別の話だ。父のオルカンも、買った後は淡々と保有するだけでいい。本人が画面を毎日見る必要もない。
全額預金=安全、ではない。これが2つ目の気づきだった。
なぜ75歳の父に高配当株や個別株を勧めなかったか
俺自身は日本株の高配当株を6銘柄、コア=サテライト戦略の一部として保有している。配当を再投資し、決算を読み、ポートフォリオを微調整しながら積み上げる。これが俺の運用スタイルだ。
だが、これを父にやらせる選択肢はなかった。
理由は明確で、高配当株や個別株は、運用に手数(てかず)がかかりすぎるからだ。
- 銘柄選定
- 配当再投資の判断
- 決算と業績予想のチェック
- 増配・減配の追跡
- 業績悪化時のリバランス判断
これらを75歳の父にやってもらうのは、現実的じゃない。投資はやればやるほど偉い、というものでもない。本人の生活負荷を上げない範囲で組むのが正しい設計だ。
その点、オルカンは究極のほったらかし商品だ。1本買えば全世界に分散され、リバランスも自動。配当再投資も内部処理される。父が見る画面は基準価額の数字だけでいい。 俺ですら個別株は手間だと感じる時がある。父にやらせる選択肢は最初から消えていた。
君の親に投資を勧める時も同じだ。本人が画面を見て理解できる範囲を超えたら、それはもう運用じゃなくて押し付けになる。
運用は、本人のキャパシティに合わせる。これが3つ目の原則だ。
今日やること
- 親の毎月の固定支出(通院費・薬代など)と口座状況をまず把握する
- 余剰資金(生活費と固定支出を除いた、当面使う予定のないお金)がいくらあるか確認する
- 現金100%の状態なら、インフレで実質目減りしている事実をまず認識する
- 個人向け国債の固定3年・固定5年を、選択肢として知っておく
- 親本人と「これからお金をどう使うか」の対話を一回持つ
まとめ
親の余剰資金をどこに置くかは、銘柄選定の問題じゃない。 残された時間と本人の意思を、商品設計に翻訳する作業だ。
満期年数は人生の射程に合わせる。インフレ保険は最低限混ぜる。手数のかかる商品は選ばない。この3つを軸に、父は自分の意思で配分を決めた。俺は提案と整理をしただけだ。
ここで一番大事なのは、配分の正解じゃない。本人と話したかどうかだ。親世代の資産運用は、本人の人生設計を聞き出さない限り、絶対に組めない。
キミも、自分の親と一度話してみるといい。商品の話より、本人の人生の射程を聞き出す方が先だ。
親の運用は、銘柄選びより対話設計だ。
※本記事は俺個人の見解・体験を綴ったものであり、特定の金融商品の購入を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。

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