「iDeCoは節税になる」という情報は、調べれば1秒で出てくる。
掛金が全額所得控除、運用益は非課税、受け取りにも優遇がある。数字だけ並べれば確かに魅力的だ。
でも、その記事のどこかに「リスク」は書いてあったか?
正直に言う。俺はiDeCoを使っているが、満額には設定していない。月1万円に抑えている。理由は2つある。流動性リスクと政策リスクだ。この2つを理解した上で使うのと、節税メリットだけ見て飛び込むのでは、10年後に全然違う景色になる。
60歳まで引き出せない、は想像以上にキツい
iDeCoの最大の特徴は、同時に最大のリスクでもある。原則60歳まで引き出し不可。これは制度の根幹だから、どの金融機関で加入しても変わらない。
「老後のための積立だから当然でしょ」という意見は分かる。でも、現実の人生はそんなにきれいじゃない。
会社員であれば、リストラ・転職・収入激減のリスクは常にある。病気や怪我で働けなくなる可能性もある。親の介護で急に出費が増えることだってある。そういうタイミングで「iDeCoに積み立てた資産があるのに、1円も引き出せない」という状況が来る。
俺がiDeCoより先にNISAを優先した理由の一つは、ここだ。NISAはいつでも売却・引き出しができる。非常時の選択肢を残せる。iDeCoは節税効果と引き換えに、その選択肢を永久に閉じる。
(参考:「NISAを優先すべき理由──iDeCoより先に埋める、俺の判断」)
緊急資金が十分にある人、収入が安定していて今後も大きな出費イベントが見えない人なら、流動性リスクは許容できる。でも、そうじゃない人が節税目的だけでiDeCoに突っ込むのは危ない。動かせない金を増やしすぎると、動かせる時に身動きが取れなくなる。
制度はコロコロ変わる。それが政策リスクの本質だ
iDeCoは2001年に始まった制度だ。この25年で何回変わったか、ざっと並べる。
- 2017年:加入対象を専業主婦・公務員にも拡大
- 2022年:受給開始年齢の上限を70歳から75歳に延長、企業型DCとの併用を原則解禁
- 2024年:拠出限度額の引き上げ(企業型DC加入者向け)
- 2026年(予定):手数料値上げ(月105円→月120円)
(参考:厚生労働省「iDeCoの制度の変遷」(取得日:2026-05-08)/ iDeCo公式サイト「iDeCoの概要」(取得日:2026-05-08) )
改善もあれば、負担増もある。問題は、加入者に選択の余地がないことだ。
手数料値上げについては別の記事で詳しく書いたが、今回の値上げの理由は「システム更新費と72億円の借入金返済」だ。制度側の財政都合を、加入者に丸投げしてきた。
(参考:「iDeCo手数料値上げ、本当の問題は『政府リスク』」)
さらに根本的な問題がある。年金制度そのものが揺れている中で、iDeCoは「国が設計した箱」に老後資産を預ける仕組みだ。箱の設計が変われば、中身の扱いも変わる。受け取り方の税制優遇だって、将来も今のままという保証はどこにもない。
年金への不安を感じているなら、その不安の矛先を「iDeCoで補完すれば解決」で終わらせるのは早い。iDeCo自体も、同じ「国の制度」だ。
(参考:「iDeCoと年金不安──会社員が本当に考えるべきこと」)
制度を信じるな、とは言わない。でも、制度を過信して全ツッパするのは、別のリスクを取っているということを認識した方がいい。
使い続けるが、上限を決めた。それが俺の答えだ
ここまで書いてきて、「じゃあiDeCoはやめた方がいいってこと?」と思った人もいるかもしれない。そうじゃない。
俺は今もiDeCoを続けている。SBI・全世界株式インデックス・ファンドで積み立てている。2024年度に始めて、評価益は+23.5%だ。節税効果は所得税・住民税合わせて年間約2万4千円になっている。数字だけ見れば、使わない理由はない。
ただ、使い方に上限を設けている。
流動性リスクを考えて、iDeCoに回すのは毎月の可処分所得のうち「なくなっても困らない部分」だけにしている。NISAの満額を優先して、残りの一部をiDeCoに入れる順番だ。また、制度変更のリスクは「ある程度は織り込み済み」として受け入れている。ゼロにはできないが、節税メリットがそのリスクを上回ると判断している。
大事なのはここだ。「節税になるから使う」ではなく、「リスクを理解した上で、どこまで使うかを自分で決める」。その判断の順番が、長期投資では効いてくる。
今日やること
- iDeCoの現在の拠出額を確認し、緊急資金(生活費6か月分)が手元にあるか照らし合わせる
- 拠出額がNISAの満額達成より先行していないか確認する
- 過去のiDeCo制度改正の履歴を厚労省サイトで一度確認し、「変わってきた事実」を自分の目で見る
- iDeCo公式サイトのシミュレーターで60歳時点の受取額を試算し、今の生活設計に対して過大になっていないかチェックする
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年金不安をiDeCoで解決しようとする前に、制度の本質を整理した記事。 - iDeCo手数料値上げ、本当の問題は「政府リスク」
2026年の手数料値上げを入口に、政策リスクの構造を掘り下げた記事。
まとめ
iDeCoは使えるツールだ。でも「節税になる」だけで飛び込むのは早い。
60歳まで引き出せない縛りは、人生の不測に対してゼロ回答だ。制度は過去25年で何度も変わってきたし、これからも変わる。その両方を理解した上で、「どこまで使うか」を自分で決める。それがiDeCoとの正しい付き合い方だと俺は思っている。
制度を使いこなすのか、制度に使われるのか。その差は、リスクを知っているかどうかだ。
※本記事は俺個人の見解・体験を綴ったものであり、特定の金融商品の購入を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。


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